2024年9月6日、アメリカの労働省が発表した8月の雇用統計。その数字を見た途端、金融市場が騒然となった。なぜなら、非農業部門の就業者数が予想を大きく下回ったからだ。
市場は17万人増を見込んでいた。しかし、実際の増加は14万2000人。この「予想外」の結果に、投資家たちの間で「ブラックマンデー再来」を懸念する声が広がっている。
でも、ちょっと待って。本当にそんなに悪い結果なのだろうか。
確かに、就業者数の伸びは期待はずれ。だが、失業率は4.2%と、前月から0.1ポイント改善している。さらに、平均時給も前年比で3.5%増。つまり、雇用の質は依然として良好なのだ。
ある金融アナリストはこう語る。「数字だけ見ると悪そうですが、中身を見れば意外と強い。むしろ、過熱気味だった雇用市場が『適温』に近づいているのかもしれません」
面白いのは市場の反応だ。普通なら、こんな「悪い」ニュースで株価は下がるはず。ところが、どういうわけか、ニューヨークダウ平均は一時250ドル超も上昇した。
「雇用統計が悪いと、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げに動くかもしれない。そんな期待が株価を押し上げたんです」と、市場関係者は解説する。
為替市場でも、円高ドル安が進行。一時1ドル=142円台まで円高が進んだ。
さて、問題はこれからだ。FRBは今回の雇用統計をどう見るのか。
市場では、「9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で利下げがあるかも」との観測が強まっている。問題は、その幅。0.25%か0.50%か、意見が分かれているのだ。
ある経済学者はこう予想する。「雇用市場の急激な冷え込みを懸念して、0.50%の大幅利下げに踏み切る可能性もあります。FRBの決断次第で、市場は大きく動くでしょう」
1987年10月19日。この日、ニューヨーク株式市場で株価が22.6%も暴落した。いわゆる「ブラックマンデー」だ。今、市場ではこの悪夢の再来を懸念する声が出ている。
でも、本当にそんな事態になるのだろうか。
金融の専門家は「可能性は低い」と見る。その理由をこう説明する。
「1987年当時と比べ、今のFRBは市場との対話を重視しています。急に市場の期待を裏切るような政策を取る可能性は低いでしょう。また、2008年の金融危機以降、銀行のリスク管理体制も強化されています」
つまり、極端な暴落は起きにくい、というわけだ。
では、これからどうなるのか。専門家の意見をまとめると、こんな感じになる。
今回の雇用統計を受けた円高進行は、投資家たちにとって警戒すべきシグナルだが、必ずしも「ブラックマンデー」が再来する兆候ではない。むしろ、経済が過熱から適温にシフトしている兆しと捉えるべきだろう。
しかし、油断は禁物だ。FRBの政策決定や地政学的リスク、さらに市場の不確実性が高まる中、冷静な判断が求められる。投資家は短期的な変動に一喜一憂せず、長期的な視点を持つことが重要だ。円高の進行が示す市場の変化を見逃さず、慎重に対応することが、この不確実な時代を乗り越える鍵となるだろう。
今回の雇用統計、確かに市場を驚かせた。でも、「ブラックマンデー再来」と騒ぐのは早計かもしれない。
むしろ、経済がソフトランディングする兆しかも。FRBも柔軟に対応してくれるはず。そう楽観的に見る専門家も多い。